心筋梗塞 H-FABP トロポニンT 甲状腺機能低下症とは FT3 FT4 TSH 横紋筋融解症

CK の上昇する病気とは

 CK が上昇する病態は多々ありますが,頻度が比較的多いものや重要なものを上げてみましょう。
 心筋梗塞 心筋梗塞は,心臓に酸素や栄養を運ぶ冠動脈が閉塞して,心臓の筋肉の一部が死んでしまう重篤な病気です。通常,胸痛で発症しますが,糖尿病のように神経が傷んでいる病気では,痛みを感じないことがあります。心筋梗塞になると,特徴的な心電図変化を認めますが,血液検査も特徴的な異常値を示します。発症後はだいたい,白血球数,ミオグロビン,H-FABP,トロポニンT,CK,AST(GOT),LD の順に上昇を始めます。CK は発症後数時間で上昇し,1日でピークとなります。CK や白血球・ミオグロビン・AST(GOT)・LD は,心臓に特異的な酵素でないので,これらの上昇のみでは,心筋梗塞とは断定できません。これに対し,トロポニンTは心臓に特異的な蛋白ですので,上昇は心臓疾患の強い証拠となります。H-FABP は,ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白の略称です。心臓だけでなく,肝臓や小腸にも存在するため,トロポニンTより特異性は劣りますが,心筋梗塞ではトロポニンTより早期に上昇しますので,診断に有用です。CK-MB も遺伝性筋疾患等の特殊な場合を除き心臓に特異的で,心筋梗塞の際には10%以上に上昇します(上昇の程度は,心筋梗塞の規模によります)。これらの心筋に特異的な酵素は,心筋梗塞以外に心筋炎や,心臓手術・心臓マッサージなどの処置を施した場合にも上昇します。
 心筋梗塞が起こった場合は,冠動脈にカテーテルという管を入れて,閉塞した血管を開通させる治療を行います。
 甲状腺機能低下症 甲状腺は,首ののど仏のあたりにある,ホルモンを出す臓器です。甲状腺ホルモンは,活気を与えるホルモンといってもよく,分泌が減少すると,活動力の低下・脱毛・浮腫がみられ,老人ですと時に認知力の低下もみられます。逆に分泌が多すぎると,動悸・発汗・手の震えが起こり,イライラしやすくなります。甲状腺疾患では CK の値が上下し,機能低下症では CK が上昇します。甲状腺機能低下症で CK が上昇するのは,代謝の低下によると考えられており,MM 型が上昇します。逆に甲状腺機能亢進症では CK が低下します。健康診断では,CK の上昇が,しばしば甲状腺機能低下症発見のきっかけとなります。甲状腺機能低下がみられた時は,FT3・FT4 と言われる甲状腺ホルモンと,TSH という下垂体から出る甲状腺を刺激するホルモンを測定します。通常 FT3 と FT4 が低下し,TSH が上昇しますが,軽度の甲状腺機能低下症の場合は,TSH の上昇のみみられます。
 横紋筋融解症 外傷や薬剤の副作用により筋組織が崩壊する現象です。CK が極めて高値となります。同時に,筋肉内のミオグロビンという物質も大量に放出されるため,尿の色が暗赤色となります。ミオグロビンは腎臓に詰まりやすく,腎不全の原因となりますので,要注意です。
 筋疾患 進行性筋ジストロフィーを初めとする筋肉が萎縮する疾患や筋炎では,CK が上昇します。これらの疾患では,通常は CK-MM の上昇が主体ですが,再生中の骨格筋には,CK-MB も多く含まれるので,時に CK-MB が上昇し,一見心筋梗塞のようなパターンになることがあります。
 薬剤性 高脂血症の薬の副作用として最も重要なものです。CK が正常上限の数倍程度の値であれば特に心配ありません。しかし,ごくまれに横紋筋融解症に発展することがあり,CK が正常上限の10倍以上を超えたり,ミオグロビンが上昇しているような場合は,薬剤の中止を考慮します。患者さん自身が尿の色に注意することは,副作用の発見に大変役立ちます。高脂血症の薬を飲んでいる人の尿が,いつもより濃く感じられたら,ミオグロビン尿の可能性があり,横紋筋融解症に発展してきた可能性も否定できませんので,医師に相談して下さい。
 運動 突然 CK が上がった人を問診してみると,最も多い原因が運動です。採血の数日前に山に登ったとかゴルフをしたとかいう答えが返ってくると,医師は,病気でなかったことがわかり,ほっとして胸をなで下ろします。通常は,放置しておいてもかまいません。
 その他 筋肉注射・鍼灸・強いマッサージ・手術等でも CK の上昇が起こることがあります。CK-BB は,主に脳に存在しますが,脳の病気で上昇することはまれです。前立腺癌等の悪性疾患で,CK-BB が増えることがあります。

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