肝癌とは ダイナミックCT SPIO クッパー細胞 ラジオ波

肝細胞癌の画像診断と治療

 ちょっと横道にそれますが,AFP や PIVKAUで肝細胞癌の存在が疑われた場合の,画像診断について見てみましょう。まず,最初に行うのは腹部超音波検査で,肝細胞癌は種々のエコー輝度(色の濃さ)の腫瘤としてみられます。肝細胞癌の疑いが強い腫瘤が発見されれば,CT スキャンによる検査を行います。その際,ダイナミックCT という,造影剤を急速に注入し,経時的に腫瘍の染まり具合を見てゆく撮影法で行います。同検査では,肝細胞癌(その中でも低分化型と言われる未熟な癌)は肝動脈単独で栄養されていることが多いため,速やかに造影されるのに対し,健常の肝臓や良性の腫瘍の多くは肝動脈と門脈の両方の血流を受けているため,染まり方がゆっくりとなります。逆に時間がたつと,肝細胞癌の染まりが悪くなり,その他の部分の方が染まりがよくなります。MRI で検査をする場合,SPIO と呼ばれる特殊な薬剤を使用することがあります。肝臓の中には,異物を食べるクッパー細胞があり,この薬剤が入ってくると,異物と認識して食べてしまいます。この SPIO というのは鉄を含んでいますので,MRI 検査で細胞を染まらなくしてしまいます。低分化の肝細胞癌の中にはクッパー細胞はいませんので,MRI 検査で通常通り白く写り,肝細胞癌の存在を示すことになります。
 肝臓癌の治療は大変発達しており,腫瘍の大きさや数が能力の範囲内であれば,腫瘍をラジオ波で焼く等の様々な処置で,癌細胞を退治することができます(ラジオ波は,300KHz〜6MHz の低周波数の電磁波で,AM ラジオの周波数とほぼ同じです)。病状によっては,手術で腫瘍を完全に取ってしまうことも可能です。
 CEA は,Carcinoembryonic antigen の略で,日本語に訳すと癌胎児性抗原となりますが,通常は CEA という略称で呼ばれています。大腸癌細胞から抽出され,胎児大腸上皮細胞にも存在することから上記名称がつけられましたが,現在は正常上皮細胞にも多く存在することがわかっています。これらの細胞の CEA が血液中に入ってくると値が上昇します。正常値(基準値)は,5.0ng/ml 以下です。CEA は,大腸癌の診断に多用されますが,大腸癌に限らず多くの癌で陽性になり,膵臓癌・胆道癌・肺癌・乳癌・胃癌・子宮癌・甲状腺髄様癌などでも陽性を示すことがあります。これらはほとんど,臓器内の管の内面を覆っている円柱上皮細胞から発生する癌です。但し,いずれの場合でも早期癌では陽性率が低く,早期に癌を見つけるのであれば,大腸癌では内視鏡,肺癌では CT にはかないません。しかしながら,血液検査で簡単にできることから,一般診療や健康診断において多用されます。
 CEA 増加の程度は,転移の有無・浸潤度・腫瘍径など癌の進行度にある程度比例しますので,病気の重症度や進み具合の判定の参考になります。また,治療による癌の縮小により値が低下しますので,治療の有効性の判定基準となります。癌の根治手術症例では一ヶ月以内に正常値になりますが,転移や癌の取り残しがあると再度上昇してきますから,根治手術の成否の判定の目安ともなります。転移病巣の場所がほぼわかっている場合は MRI による検査が,全身のどこにあるかわからない場合は PET が有用です(120頁参照)。
 癌以外でも,膵管,胆管等の管腔が閉塞されると,CEA の排泄ができないため血流中に流入し,値が上昇します。CEA は,腎臓や肝臓で代謝されますので,これらの働きが低下した時も上昇します。また,喫煙によって上昇しますので,結果の判断には,喫煙本数を加味しなければいけません。

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